ひとりカラオケ

ひとりカラオケなんて、何年ぶり?あれは東京に住んでいたころだから、もう12年も前か。

 

わたしの人生においてハマることなんてないだろうと思っていた「アイドル」にハマって早1年。自分より年下の男の子にハマるという、言葉では言い表し難い背徳感と、彼らを今見ずにいたら絶対に後悔するという謎の確信のもと、テレビ・ラジオ・雑誌のお仕事を追って、あとはCDを聴いてライブDVDを観ている。ライブにはまだ行っていない。生で観たらきっと引き返せなくなるし、わたしの性格上“もっと、もっと”が止まらなくなるのがわかっているから。

 

誰かと分かち合うわけでなく、生活に支障がない程度で、ひとり完結した嗜好として、楽しんでいる。

 

そうそう、ひとりカラオケ。久しぶりすぎて緊張しているけど、まぁ誰に気を使うこともないので、片っ端から曲を入れていく。今日はジャニーズWEST縛り!

 

何曲か歌ったところで、ドアのむこうに人影が立ち止まっているのが見えて、声のボリュームを少し落とす。

わたしが気付いたことに向こうも気付いたみたいで、スッと居なくなった。

知り合いかな?とも思ったけど、普段来ることのないこの町で遭遇することもないだろうなと、また歌うことに専念した。

 

しばらくしてまた、さっきの人影。怖いのでそーっと入口に移動してフロントに連絡しようとしたその時、ドアが勢いよく開いて、男の人がひとり入ってきた。

 

「ひとりなん?」

「えっ…」

「自分、ひとりなん?」

「あ、はい…」

 

それを聞いて何の遠慮もなく部屋に入ってきた。そしてフロントに電話を掛け

 

「あ、えーと、烏龍茶ひとつ…」

 

とドリンクのオーダーをしている。わたしは何のことだか、マイクを持ったままあっけにとられている。それからこちらを見て、空のグラスに気付き、あごで(そっちは?)と問いかける。

 

「コ、コーラで」と答えると

「あと、コーラひとつ。お願いしまーす」そういって受話器を置いた。

 

わたしの隣にぼすん、と乱暴に座る。

「で、好きなん?」

「はっ?」

「ほら、その、ジャニーズWESTがさ」

 

そこで、流れていた曲がちょうど終わった。

しばし流れる静寂。

 

わたしはここで考えた。いい大人が、若いキラキラした男の子に現を抜かしていること。何を好きになるかなんて、個人の自由だし、誰に迷惑をかけているわけでもない。それでも拭えない後ろめたさ。生活にハリを与えてくれる素敵な存在。自分の中の考えがグラリグラリと揺れたあとに、体の内側から熱くなっていくのがわかった。きっとこれは、恥ずかしいことだと思っていることが勝ったのだ。好きで応援しているはずなのに、何だか彼らに申し訳ない気持ちになった。

 

「んじゃ、質問変えるわ。何の曲が好き?」

 

わたしは、数曲挙げた。ためらいなく出てきた。フンフン言いながらひょいひょいとデンモクを操作して、それらの曲を入れていく。よしっと立ち上がるとわたしの持っているマイクに向かって手を差し出して

 

「貸してみ」と言うので、何が何だかわからないままにマイクを渡した。

 

最初の歌い出しで、気付いてしまった。

彼が“ご本人様”であることに…。

 

間奏でマイク越しに

 「どうしたん?」と聞くので

「いやだって、なんで…本、人?」と言うと

「気づくの遅いわー!」と、画面越しで、紙面上で見たことのある笑顔を見せた。自分でも思う。気づくの遅いわ!

 

そこで彼の携帯が鳴る。曲が流れる中で電話に出た。

 

「あ、えーっと、おれ調子悪いんかな…外の空気吸ってくるわ。うん、しばらくしたら戻るから」

そう言って電話を切った。聞きたいことはたくさんある。あたまの中は疑問符でいっぱいだ。でも、こちらから踏み込んじゃいけない領域だっていうのはわかってる。だから何も言わないことにした。

 

「好きな曲、どんどん入れて」そういって彼は続きを歌った。

 

 

 

 

 

※もちろんフィクションです