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ファミレス

朝5時、12時間の労働を終えてヘトヘトになりながら着替えを済ます。

同じく12時間労働を終えたというのに疲れを見せない表情で彼は「このあと飯行くけど、どうする?」とわたしに問いかける。毎度のことながら返事に困っていると「何や、用事でもあるん?」と今度は口調を強めて問いかける。「いや、別に無いですけど…」と答えると「ほんじゃ、行くぞ」と言ってこちらのことはおかまいなしにどんどん行ってしまう。慌ててバッグを手に取り消灯・施錠してあとを追いかける。

 

駐車場に着いて車に乗り込むと「こんな時間やし、ファミレスでええか」と前を向いたまま言った。わたしは疲れと僅かにやってきた睡魔と戦いながら「はい、大丈夫です」と答えた。車で20分の距離にあるファミレスに着くと、客もまばらな店内へと入る。小さく流れる有線放送に気を取られてると「おーい」と呆れ顔でメニューを渡された。わたしは人とご飯を食べるのが苦手で、こういう時にスッと決められない。しばらくにらめっこをしていると「俺が決めたるわ」といってわたしが見ていたメニューを取り、パスタのページを見始めた。視線は落としたまま「嫌いなもん無いよな」そう言って何に決めたのかを教えてくれることもなく、呼び出しボタンを押した。

 

「~と、~と、あとこのイチゴパフェひとつ」

「パフェ!?」わたしは思わず声を上げていた。店員さんはびっくりしてこちらを見ている。彼は落ち着いた様子で「あ、大丈夫です、それでお願いします」そういってこちらに視線を戻した。「俺のちゃうぞ、お前の食後のデザートやからな」そう言ってメニューを定位置に置いた。

 

彼には長い付き合いの彼女がいる。そろそろ結婚するんじゃないか、というのも本人は口にしないけれど風の噂で聞いている。わたしは彼が異動してきたときに一目惚れをした。全然違う部署にいたわたしを自分のプロジェクトメンバーに呼んでくれて、2人で行動することも増えた。毎日うきうきした気持ちで働いていた。わたしの気持ちに気付いていて「お前、俺のことスキやろ?」とか平気な顔して言うので、完全に浮かれていた。そうしてしばらくしてから彼女の存在を知った。彼に彼女がいることをわたしが知ってからも、変わらぬ距離で接してくる。今日みたいにふたりでご飯を食べることもしょっちゅう。自分が彼女の立場だったら嫌だなと思うので、いつも返事は濁すのに「ええから付いてこいや」と言って当たり前のようにふたりで食事をする。

 

料理が運ばれてきて、わたしの前にはモッツァレラチーズがたっぷり入ったトマトソースのパスタが置かれた。彼はシーフードの入ったサラダを選んでいた。「さあどうぞ」フォークを渡されてしばらくそのままでいると「どうした?調子悪いんか?」と心配そうにわたしの顔を覗き込んだ。「いえ大丈夫です、いただきます」そう言ってパスタを口にした。わたしの様子を見て安心したのか彼もサラダに手を付けた。「それだけですか?」と聞くと俺はええねん。お前は痩せすぎや。もっと太れ」あれだけ長時間働いたのにどうして?というくらい元気に笑った。

 

食事を終えて、イチゴのパフェがやってきた。彼は優雅にコーヒーを飲んでいる。伏し目でコーヒーを飲む姿にわたしがうっかり見とれていることに気付き「いま見てたやろ」と意地悪な目でこちらを見つめる。何も言えず無言でパフェをつつく。彼はふふっと笑ってまたコーヒーを一口飲んだ。

 

「あのっ」思いのほか大きな声が出てしまった。

「こうやって誘っていただけるのはうれしいんですけど」

「うん」

「でもやっぱ、申し訳ないというか、あの、彼女さんに…」

「言いたいことはそれだけか?」

「えっ」

「まぁええわ」

 

しばらくの沈黙が続き、彼が口を開いた。

「お前、これからウチ来い」

びっくりして何も言えないでいると

「どうせ帰って寝るだけやろ」そう言うと、席を立ってわたしの耳元で

 

「俺、ずいぶん前に彼女と別れて、さみしい独り身やからさっ」 と手にした伝票をヒラヒラさせながらレジへと向かっていった。

 

 

 

 

 

※もちろんフィクションです